『調整機能』を担うブランド・マネジャー
前々号から、ブランドのマネジメントが組織のなかでどのように行われるべきかについての議論を展開しています。
前号では、「情報本部」としての役割について議論しました。この議論のベースに、D.ラックの視点を用いていることを述べましたが、今回は、彼が2番目に重要機能として指摘している「調整機能」についての議論を展開したいと思います。
ブランド・マネジャーは、「ミニ社長」や「ミニ・ジェネラル・マネジャー」と呼称されているものの、その部署は組織単位としては大きなものではありません。しかし、彼(彼女)のブランド・マネジメントに関する守備範囲は、そのポジションが持つインターフェイスを考えてみると広範囲に亘ることが理解できます。すなわち、ブランド・マネジャーは組織インターフェイスの輪の中で、彼(彼女)の責任を果たしていくことになります。
一方、社内のブランド・マネジャーから、さまざまな形で、多くの業務を依頼される個々の部署は、1人のブランド・マネジャーからの要請だけではなく、多くのブランド・マネジャーからも要請を受ける立場になります。また、要請を受ける部署も固有の業務責任を負っている立場です。
ブランド・マネジャーの起源を辿ってみますと(当初は、プロダクト・マネジャー制として発足しました。)、事業の多角化に伴って、個々のブランドに対する最適の資源配分をするために、ブランドごとに責任を負う立場として担当マネジャーを置いたことが分かります。すなわち、職能制組織では、複数の事業を管理する上で支障を来たすことが多いことから事業部制の誕生をみたように、ブランド・マネジャー制では、その管理単位を個別ブランドのレベルまで求めることによって、「自己充足性」を高めることに狙いがありました。
経営資源の最適配分の課題は、現実には簡単な意思決定ではありません。もちろん、ブランド・マネジャー制をとっている企業では、ブランド・マネジャーの上位に位置するシニア・マネジャーや担当役員がいて、資源配分の合理性について高い視点から見る立場がありますが、すべてのブランドのマネジメントに関する案件がシニアのレベルで行われるようなことですと、何のためのブランド・マネジャー制なのか、その意味と根拠を小さいものにしてしまうことになってしまいます。
ブランドの要請を組織インターフェイスの輪の中で、「調整」ということを通して関係部署に理解し、それぞれの部署の責任において実行してもらうためには、この「調整」機能は大きな意味と重要性をもっています。事実、ブランド・マネジャーの仕事の多くは、時間的にも、エネルギーの点においても、この「調整」に割かれています。関連部署のスタッフに対して行うべき、ブランド戦略に対する理解や、戦略実行プランの実施に対する理解と協力には、どれだけ精力的に取り組んでも、取り組みすぎることはないと言っても過言ではないでしょう。
インターフェイスということを考えると、社内組織だけが、その輪の中を意味するものではありません。たとえば、コミュニケーション戦略を考えてみますと、広告代理店との調整も大きな重要性をもっています。また、市場調査機関とのインターフェイスも、社内の調査部門とのインターフェイスと同様に重要なものです。
それでは、どのように調整が行われていくのが良いのでしょうか? 難しい課題です。単なる説得やお願いでないことや、異なる意見や見解との「足して2で割る」方式での調整でないことはもちろんです。さらに、意思決定を求められる時間的制約やタイミングの重要性も指摘しておかなければなりません。ここに、戦略の重要性があります。戦略立案のための「アクション・センター」という機能については次回の議論に譲りたいと思いますが、戦略的目標、戦略企図、そして戦略の具体性に関する共通理解がなければ、調整は困難な業務プロセスになります。
このことを、別の観点から申しますと、「調整」は、戦略的目標、戦略企図、具体的戦略の共通理解から始めなければならないことを意味しています。もう一点の重要な点は、戦略が立案されたとおりにビジネスが進行するとは限らないことです。日々変化する経営環境とその中にいる自身のブランドのポジションをもっとも良く理解しているブランド・マネジャーしかできない「調整」があることが理解できます。
ブランド・ヘリテージ・ラボ 代表 末包 厚喜