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TCD Branding Magazine - ブランディング Web制作 | tcd…

ブランドの長期的な成長を目指して

これまで、このメール・マガジンでは、ブランドのポジショニングについての議論から、ブランドをマネージするブランド・マネージャーの組織インターフェイスにおける機能的役割と責任についての議論を展開してきました。このレクチャーは今回で最終回となりますので、もう一度、ブランドのもつ不思議な魅力や、消費者・顧客のココロを棲家とするブランドの性格からくるマネージメントの困難性を乗り越え、ブランドを成長させていくための考え方に触れてみたいと思います。


私たちが普段モノやサービスを購入したり利用する場合、選択の基準は何でしょうか?マーケティングの4つのPs(Product,Price,Place,Promotion)は、このことを考えるにあたっていくつかの示唆を提供してくれます。製品の機能や品質であったり、価格であったり、購入するにあたっての場所や購入方法が利便性を提供するものであったり、広告宣伝や販売促進の影響を受けていたり、さらにこれらがミックスされたものであったりすることは、これまでの議論を振り返るまでもなく、私たちの日常生活からも容易に理解できることと存じます。また、選択する商品を変更したり、特定の企業の商品やサービスを選んでしまうのはどのような理由からでしょうか?
 
マーケティング・ミックスについて語るとき、その整合性と全体としての強さが自社の商品の選択を有利にすると考えることに異論はないでしょう。しかし、その強さは"相対的"であって、競合他社は、競争相手の弱点を狙って自社のマーケティング・ミックスの全体としての強さを増そうと必死で挑んでくると考えることができます。
マーケティングの担当者は、競争相手のそのような意図を見抜き、常に対応策を用意しておかなければなりません。「ブランドの番人」というブランド・マネージャーに対する呼称は、このことの重要性を語っています。

しかし、一方で、このような挑戦を受けつつも、何十年という単位で優位なポジションを保っている商品やサービスがあることも事実です。その理由を考えると、製品開発力や、それを支える技術力や営業力や宣伝の巧みさなど、さまざまな理由を指摘することも可能です。しかし、ロングセラー商品と呼ばれている商品群には、4つのPsだけで十分に説明できない一面が見えてきます。それらの商品が持っている(あるいは、永年に亘って醸成されてきた)不思議な魅力があることも十分に首肯できると思います。



 「ニュー・コーク騒動」という有名なケースがあります。これは多くの書物で取り上げられていますので、ご存知の方々も少なくないと思いますが、1985年にアメリカでコカ・コーラ社が、それまでの「コカ・コーラ」に代わって「ニュー・コーク」を発売したときに起こったさまざまな出来事が教える貴重な教訓でもあり、ブランドの不思議さを考えるのに最適なケースであると存じます。コカ・コーラ社は、このニュー・コークの市場導入にあたって19万人にも及ぶ消費者によるプロダクト・テストを実施したといいます。19万人のサンプルといえば、統計的誤差について云々する必要のないサンプル・サイズです。しかも、61%もの消費者が新しい味のニュー・コークを支持していたのですから、同社のテクニカル部門の人たちも、マーケティング担当の人たちも、もちろんトップ・マネジメントも自信満々であったことは想像に難くありません。

しかし、いざ市場導入してみると、一週間もたたないうちに毎日1000本を越える電話でニュー・コークへの不満がぶちまけられる事態が発生し、その電話本数は日を追うごとに増えていったといいます。およそ3ヵ月後には、苦情の電話は一日8000本、手紙は4万通にも達したとのことです。さらに、「アメリカン・オールド・コーラ愛飲者協会」が設立されたり、ニュー・コークを元の味に戻すようにとの集団訴訟も起こったのです。

このケースを『ブランド』という書物(岩波新書)のなかで取り上げた神戸大学大学院の石井淳蔵教授は、「コカ・コーラ」というブランドはコカ・コーラ社の財産であるにもかかわらず、その価値の棲家は消費者のココロのなかであることと、「コカ・コーラ」以外のものでは代わりようがないものであること、と指摘しておられます。
ここにブランドの不思議があり、ブランドをマネージすることの難しさとともに魅力もあると考えることができます。



しかし、マーケティングの現場では、ブランド・マネジメントの難しさやブランドの魅力が特殊なものであるとの認識を超えて、日常的な課題に対応していく必要に迫られていると言っても過言ではないでしょう。この課題対応は決して容易なものではありませんが、ブランドの責任者は、「番人」であると同時に「良き診断者、良き医者」であることが求められます。ここにブランドの健康診断の必要性があります。これは、「ブランド・ヘルス・チェック」とも言われています。すなわち、ブランド・マネージャーは常に、ブランドの健康状態に配慮していかなければなりません。実際には、市場調査部門のスタッフの協力が要りますが、良い医者が患者と対面したときに、大方の健康状態が推測できるのと同じように、優れたブランド・マネージャーは日常のブランドに対する流通や消費者の対応から自身が担当するブランドの健康状態が把握できなければなりません。もちろん、優れた医者が医療機器の測定による患者の情報を十分に活用するように、ブランド・マネージャーも市場調査情報を活用し、それらをブランド戦略と日常のブランド・マネジメントに活用しつつ、ブランドの長期的な成長を目指してリーダーシップを発揮することが求められています。

 

【お知らせ】
本メールマガジン創刊時から計15回に渡り連載してまいりました、末包厚喜による「ブランド・フォーカス」が今回を持ちまして最終回の運びとなりました。ブランドのポジショニングからブランド・マネンジメントにおける組織論まで、様々な視点から語られる第5の経営資源、"ブランド"に関するレクチャーには、連載中、熱心な読者の方から多数質問が寄せられました。長い間ご愛読ありがとうございました。
また次回4月号からの「ブランド・フォーカス」は、当カンパニー嘱託ディレクターの新村佳史が、『ブランディングの社会学』と題して1年間連載いたします。独自の社会学、文化人類学の視点を活かした刺激的なブランド論を展開してまいりますので、引き続きご愛読ください。


ブランド・ヘリテージ・ラボ 代表 末包 厚喜