名刺の向こうに企業が見える
日本のビジネスにおいて欠かすことのできない重要なツールといえる「名刺」ですが、その小さなスペースに、ブランド・マークを始めとし、スローガンや品質認証の表示がなされるなど、企業ブランドの表現要素がほぼ全てといっていいほど記載されており、企業のほぼ全員が保持して、顧客と直接面と向かって取り交わすものであることから、ステークホルダー間をつなぐコンタクト・ポイントでのツールとして考えた場合、いかに企業ブランド・コミュニケーション上重要であるかは論を待たないでしょう。
名刺のデザインが「企業イメージ」や「コーポレート・ブランド」を表現する為の重要なツールの1つと捉えられるということは、逆に名刺のデザインを通してその企業のブランドのあり方が透けて見えるということでもあります。特に国内ビジネスにおける名刺のプレゼンスは、欧米に比べて格段に高いことから、日本企業に特徴的なブランディングの課題が見えてくるのではと、Sonyグループを事例に探ってみたいと思います。
日本企業のブランディングでは、欧米からのどちらかといえばマーケティング・アプローチといっていいブランド理論ではあまり研究されていない、2つの課題が挙げられています。
その一つはB2Bにおけるブランディング、そもそもB2Bの取引において一体ブランドがどれほど重要視しなければならないものなのかといったことですね。二つ目は、日本企業に特有の系列構造(ファミリーと呼ばれる)におけるブランドのあり方、昨今に重要経営課題でもある組織の再編も絡んだ企業グループ・ブランディングです。
ソニー・グループは、近年ダイナミックに事業の多角化を戦略的に進める一方、コーポレート・ブランド価値がブレない、希薄化しないためのブランド戦略を注意深く展開してきています。ともすると親企業のブランドをファミリー企業各社に割り振る「家元制度」的グループ・ブランド施策が多い日本企業が多いのですが、「身内意識」のことばかり頭にあってファミリー企業によっては顧客が受け取るブランド価値が必ずしも一定の水準を保てない、提供価値そのものが曖昧になるという問題があります。
こうした中で「戦略とは...何をしないか決めること」といった逆説的な言い回しを援用して、ソニーのブランド管理責任者は、かつて「ブランド戦略とは、何にブランドを付けさせないかだ」とグループ・ブランド戦略について語りましたが、次に示したグループ・ブランド展開のフォーメーションを見ると、「SONY」ブランドを拡張しつつ如何にしてコア・コンピタンスを明確に維持しようとするかの強い意志がみてとれます。
一方ソニー・グループ各社の名刺を並べて見ますと、そのデザインが個々の企業の独自性を主張しながら、レイアウトのシステム一貫性がグループ全体の価値を表現したものとなっていて、グループ・ブランド戦略をそのまま具現化したものであることが分かります。連結決算の対象企業、持ち株比率といったものまでが透けて見えるようであり、クオリティに対する真摯な姿勢が共通項として感じられます。
名刺の大きさは国内では55mm×91mmが標準的なものですが、各社ともほとんど同じサイズであるこの小さな紙に印刷された「ブランド訴求」のコストは、企業の大小に関わらず大した違いがあるわけではありません。しかしながら、そのデザインの是非によってブランド価値への貢献は大きく差がつくことでしょう。また、先ずは現在の企業のブランド・イメージを把握する簡便なアプローチとして、企業グループ全社の名刺デザインを総合的に分析することによってスピーディーで効果的なビジュアル・オーディットが可能といえます。
TCDブランディングカンパニー クリエイティブ・ディレクター 高橋正広