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学歴と階層

前回まで、学歴により個々の好みが大きく変わり、「階層」が生まれてきたことを確認。次いで、ブランディング戦略、商品販売計画を立てるにはどの階層を狙うかを明確化する必要があると述べてきました。私の考えの核となる部分ですので、若干繰り返しになりますが、教育と階層について今回も再確認しておこうと思います。

ところで階層という言葉を用いる場合、最も基本的な分類は所得による分類になります。SSM調査(社会階層と社会移動をテーマにした全国規模の調査)でも、基本は所得により5つのクラスに分類。この調査では所得階層ごとに子弟がどのレベルまでの教育を受けているか、を丁寧に分析しています。昔から社会学では教育と社会移動というのは大きなテーマなのです。1985年の調査では、高所得層はもちろん、低所得層の子弟まで高等教育を受けるようになったことが明らかになっています。1980年代後半から90年代、団塊ジュニアの子弟の大学進学時期に合わせて、当時の文部省は大学の新設や定員増を次々と認可。その結果現在では、4年制大学進学率はほぼ5割。短大・専門学校を含めると、実に7割が高等教育機関に進学するという世界に例のない教育大国に日本はなっています。

ただ、社会の労働力構成を考えると、本当に高等教育を受けた層が必要となる管理・専門職層は多くとも全体の2割まで、と言われています。本当のエリートは3%という声もあります。つまり、日本の大学卒業生(というか大学)の半分以上は、もはや指導者や指導者養成機関ではない、ということです。実際に筆者はよく大学に就職指導講演に行きますが、高校生程度の教養がない、中学生の英語の教科書が読めない「経済学部の学生」がゴロゴロいます。こういう大学の場合、厳しいですが実質の新卒就職率は5割を切ります。高卒で仕事がないから大学に来て、そのままプータローになる学生が多いのです。

もちろんこんな現象が起きることを、文部省は読み込み済でした。そこでとられた政策が、本当の高等教育を受けられるエリート養成大学の設置です。旧帝大を中心とした大学院大学構想がそれです。旧帝大に早慶、医学部、都市部の国公立大学の定員を合計するとおよそ5万人。世代人口の4%強のエリート校を明確に区分しました。その上で国立大学の独立行政法人化を進め、地方国立大学はその地方の中間管理職(公務員、教員)養成所としての区分を行い、私大に関しては各自の経営努力で勝手に頑張れ、と突き放したのです。 

今年度からスタートした法科大学院、神戸大や一橋、慶応が強力に進めるMBA(経営大学院)構想は、文科系のエリートも大学院で育成する、という方針です。その学費は従来のものより高めの設定です。つまり、大学教育が事実上4年から6年以上に延長され、教育費負担が大幅に増える、それに耐えられないとエリートになれない、という教育システムが採用されたのです。東大の入学者の6割は6年一貫教育私学出身であり、実は東大入学者子弟の親の所得階層は他のどの総合大学よりも高い、ということはすでに指摘されています。一見公平に見える、「どの階層でも努力したら良い教育が受けられる」日本の教育システムは、実質的には所得に応じてエリートになれる可能性が大きく変化する、というものになっているのです。

「難しくない大学」に入学している子弟の所得階層は決して高くない。つまり、大学進学率は階層にかかわらず上昇したといっても、大学のレベルで見ると差が広がったのです。この結果、東大や京大といった学校の雰囲気がずいぶんと変わりました。かつての学園紛争世代からは想像もつきませんが、非常に素直で、親や教授に従順で、反権威をカッコ悪く思う学生が増えているのです。現役の京大大学院生とこの夏、仕事を共にしましたが、やはり中学から私学に通っていた彼は、自分たちの同類――同じ私学仲間や大学仲間――以外の人間への関心が薄く、現在の社会の問題は的確に指摘しても、それを変えようという気運は持ち合わせていませんでした。逆に現在の成功者にうまく取り入って、そのグループの中でリーダーになりたい、という野望と、自分はそのグループにもう入っているんだという強烈な自負は感じられましたが、他の階層集団をはなから見ようとしていないのです。

良い家に生まれた子が、その環境に素直に順応し、隔離された同じようなグループの中で育つ。大学院大学は今までの大学と違い、「大学院に合格する」目標が明確となるので、大学入学後も外の世界に触れず、中でのネットワークで生きる。そんな彼らが、やはり同じような世界で育った先輩の引きでエリートとして就職していく。最近の若手国会議員が与野党問わず同じ雰囲気をかもし出しているのは、彼ら(2世が目立ちますが)がこうした環境育ちの先取りだからでしょう。本当に、政策も与野党で差が無い時代になりました。

政治の世界で「庶民派」が消えていったように、消費の世界でも同様な変化が生まれてきているようです。超高級ブランドショップの隆盛と、100円ショップの繁盛は、この国から中間階級が消えつつあることの証明です。教育による階層の拡大再生産システムが機能し始めて数10年、学校による階層差は顕著になりました。そして、ブランディング――ことに言葉による情報を付加価値として与える商品メッセージを読み解ける層と、読むことも考えることも放棄する層が生まれてきたように思います。今、日本は15%のハイクラス(といっても昔の中の上です)、そしてハイになれる可能性を残した15%のアッパーミドル、下へ落ちる可能性の高い30%のミドル、ほとんど下に落ちている15%のローミドル、そして25%のロークラスへと5つの階層に分かれつつある社会だと私は考えています。さらに、小泉内閣の改革が、ミドルの崩壊をさらに助長するだろうとも。これを前提に、3年後、5年後の消費動向を予測することが、これからのマーケティングに不可欠なセンスとなるでしょう。少なくとも、一億総中流意識時代の開発、マーケティングの蓄積は、すべて捨て去るべきだと考えています。

TCDブランディングカンパニー 嘱託ディレクター 新村 佳史