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国家と企業のブランディング~ブランディングから見た愛知万博

この4月に2度ほど名古屋での仕事の機会があったので、足を伸ばして愛知万博を視察に行きました。「愛・地球博」というのがブランド名ですが、何とも面映くて使いたくならないネーミングではあります。時代の要請なのか、名古屋の方が特にこの種のブランド戦略がお好きなのかは不明ですが、同時期にオープンした中部国際空港は「セントレア」というブランド名がついています。(「セントレア」というのは、勿論Central Airportの略。まぁ、「かんくう」よりはましではありますが。)こちらも見に行きましたが、空港を核としたテーマ型商業施設といった趣で、関空の商業的失敗の原因分析はなされているようでした。

さて、愛知万博ですが、まだお越しになっていない方のためにアクセスについて少しだけ触れておきます。というのも、愛知万博に行ったと言うと「リニアモーターカーに乗った?」と聞かれる方がいらっしゃるのですが、会場アクセスに使われている「リニモ」という愛称のリニアモーターカーは、JR東海が最高時速500kmで試運転を繰り返している超電導リニアとは違い、ほんの9キロ足らずの路線に9つの駅があり、最高時速は100kmというもののすぐに次の駅に着いてしまう。車体はレールから浮いていますので、すごく乗り心地は良いのですが、スピード感を感じられるようなものではありませんでした。私も行ってみてはじめてわかったことです。ちなみに名古屋駅からの主なアクセス方法は3つあって、JRで万博八草まで行ってリニモに乗り換えというのと、地下鉄で藤が丘からリニモというのと、もうひとつ名鉄のシャトルバスがあります。お勧めはこのシャトルバスで、乗り場とゲートが徒歩10分くらいかかるのが難点ですが、何と言っても乗り換えしなくていいので特にお疲れの帰り道にはベストでしょう。

ところで、私は35年前の大阪万博を高校1年で迎えた生粋の「大阪万博世代」ですが、今回の愛知万博でも共に変わらぬ共通項を見つけ、感慨ひとしおでした。それは、「万博は混む!」という事実です。「人類の辛抱と長蛇」と揶揄された、あの長蛇の列は今回も健在でした。ニュースでご覧になっていると思いますが、人気のパビリオンはやれ120分だ、180分だと行列の長さを「期待価値」の証であるかのように競っています。でも実際に並んでいて思ったのですが、あの時と今度では何か違うものがあります。感覚的なものですが、あの時は「この列の先にはどんな素晴らしい未来が待っているのだろう」といった熱気のようなものが充満していたのに対して、今回は変に落ち着いた秩序みたいなもの、「この程度」という予感めいたものが行列を支配していて、まるで牧場に戻る羊のようにしずしずと列は動いていくのでした。それは必ずしも私が年を取ったせいだけではなく、今回の万博では見物客のそういう熱気や興奮までもが、どこかうまく管理されているせいではないかという印象を持ったのです。

これは全てのパビリオンだけでなく、駅などでも共通した管理手法でしたが、行列を細かく小出しに中に入れていく、という方法が徹底的に採用されている為、行列が出来ているパビリオンでも、中に入ってみればガラガラという現象が少なくありませんでした。あの押し合い圧し合いして「月の石」を見たときの興奮を逆に懐かしく思うのでした。なお、入口ゲートでのボディチェックや所持品検査も含め「セキュリティ」に関する危機感の違いに、大阪万博からの時間の流れを一番感じました。



さて、ブランディングでした。愛知万博公式ホームページによると、今回の万博は「自然の叡智」をテーマに「『自然のもつすばらしい仕組みと、いのちの力』に感動し、世界各地での自然とのさまざまなつき合い方、知恵に学びながら、多彩な文化・文明の共存する地球社会を創る」ことが開催意義とされています。今我々地球社会が置かれている状況を踏まえた優れたテーマ設定かと思います。では、そのテーマに対して我が日本政府はどのような解釈と方法論で、答えを出しているのか?

長久手日本館を見てみました。ここの目玉は何と言っても全天球型映像シアター「地球の部屋」でしょう。球体の中心で球面に写った映像を見るという、映像体験としては今までになかった凄さで、隣で見ていたお婆さんは「良い冥途の土産になった」と言っておられました。しかし、かけがえのない自然をテーマにした映像の質が人工的で綺麗過ぎて「この美しい地球を守らないといけない」という本来伝えるべきメッセージが他人事のようで、かえって伝わらない。技術の追求が、必ずしも価値の提供につながらないという、今日本の産業界がおかれている大きな逆説を垣間見たような気がしました。(尚、日本館では「日本の経験」と題された展示は、私は興味深く見ることが出来ましたので報告しておきます)

同じメッセージを伝えるにしても博覧会協会出展のグローバル・ハウスの映像、ソニーの新開発レーザー・プロジェクション・システムによる巨大映像ですが、こちらの方はコピーライターの仲畑貴志氏によるディレクションで、ベストセラー「地球がもし100人の村だったら」を下敷きにされたことは見え見えですが、さすがにメッセージのうまさでしっくりと納得させられます。(ついでに、グローバル・ハウスでの人気展示「冷凍マンモス」ですが、これははっきり言って、お化け屋敷のろくろ首の類です。マンモスが見たければ、ロシア館に行けば同じようなものを並ばずに見ることができます。)

技術の追求が必ずしも価値の提供につながっていないなどと大それたことを言ってしまいましたが、そのことを最も象徴な形で教えてくれるのが三井・東芝(MT)グループ館とJR東海(JRT)館です。

MTグループ館は、有力企業パビリオンの中では比較的空いていたこともあって(それでも当日予約するのに30分並んで)視察できました。ここでもやはり映像が主役でした。ブランディングの観点から言えば、何十社という多様な企業グループに共通のブランド・アイデンティティがあるはずも無く、つまるところグループ・パワーとしての技術の誇示と「あそこは凄い」という「評判」の獲得が目標となり、それには手っ取り早く「見たことも無い映像」で勝負、という成り行きはわからないではありません。仕掛けとしては入場客を20人くらいの小グループに分け、カメラで全員の顔を立体撮影し、それぞれの顔がCG加工された上で、上演されるCGアニメ映画のキャストとして反映されるというものでした。ここまでは正直期待しました。いよいよ映画が始まります。加山雄三扮する宇宙艇の艦長が何か指示をしています。「どこや、どこや」と自分を探します。「あっ、私!」隣のおばあちゃんが声を上げます。おばあちゃんが全く不似合いなヘルメットをかぶって、突進していきます。でも、自分はどこ?かなり個性的な顔立ちの人は何とかわかるようですが、私などのようにごく普通の顔の持ち主は誰に扮しているのか、さっぱりわかりません。そうこうしているうち映画は大団円を迎え、終わってしまいました。肝心のストーリーですが・・・さっぱりわかりませんでした。(地球の大切さを問いかけるものであったように思いますが・・・)「俺って出てたっけ?」帰り際、若い男性が彼女に尋ねていました。私も同じ質問をしたかったのですが、相手がいません。期待しただけに、満たされない気持ちのやり場がありませんでした。この映像の作り手や主催者たちは途中第三者へのモニタリングを実施したのでしょうか?素晴らしい技術なのでしょうが、技術の追求だけが自己目的化したのか、顧客の視点を欠いてしまったために、結果として顧客不満足を生み出してしまう。エンタテイメントにはあるまじき不首尾と言わざるを得ません。

JRT館も顧客の立場や気持ちをあまり考えていないという点では同類のように思いました。ここはブランディングの視点ははっきりしています。その技術陣が全力を挙げて取り組んでいる将来技術-リニアモーターカー-のプレゼンテーションに絞られているからです。この紹介映像がメインなのですが、入場客はその前に前室で7分ほどの前座の映像を見せられます。うなぎの寝床のような狭い部屋で、立ったままで、それも何十分も列に並んでやっと入場できたというのに。このやり方はアメリカ館でも経験しましたし、ディズニーランドなどでは普通の手法らしいのですが、少なくとも私は何とも不愉快でした。7分間の前座映像がまた、鉄道の歴史についての教訓的なもので、自動車や航空機のようなライバルの出現にも負けず、いかに鉄道が輸送手段として発達を遂げてきたかを誇らしげに語る内容だったので、曲がったへそが余計ひねくり返ったのでした。そして、その後たどり着いたメインの3D映像、それはただ単に試運転コースをひた走るリニアモーターカーの姿をあれやこれやと手を変え品を変え撮っただけのものだったのです。実際にまっすぐ電車が走るだけなのですから、マニアは別にして一般人には、面白くも何とも無いのです。それをいかにも日本の技術の粋だぞ、凄いだろ、凄いだろと仰々しい音楽と共に煽り立てるのですから、小さな子に至っては泣き出してしまう始末でした。この種のパビリオン体験で、出てきたときに不愉快になるというのはあまりないことです。その意味でJRT館は見事な「逆ブランディング」を成し遂げたことになります。



くさすばかりでは芸がありません。外国館には小粒ながら素晴らしいプレゼンテーションをしていたところが沢山ありました。私が一番印象に残ったのがUK館と北欧5カ国(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)共同館、そしてギリシャ、メキシコ館でした。UK館は全体テーマである「自然の叡智」を素直に取り上げた展示で、国の存在感には似合わぬミニマルな展示でしたが、サメや松かさなど身近な動植物をとりあげ、それらに学んで作られたサメ肌水着や体温保温繊維のしくみを、センサー技術を応用して、さわる、あおぐ、手を振るなど人間がアナログ的に関与することによって、コンピュータを操作するといった方法をとっていて、そのデザイン処理の巧みさと共に知的な興奮を与えてくれました。大人の私にも興味深く、小さな子供にも楽しい、この展示は経済的には日本とは比べ物にならないこの国が、何によって国際社会でその存在感を示していくつもりかを明確に打ち出していました。入口では紙で作ったひとひらの葉っぱ(しおりやタッグとして利用可)が配られ、そこには次のURLが記載されていました。 http://www.my-earth.org.uk  アフター・ストアのブランド・エクスペリエンスも周到に準備されている訳です。

北欧共同館もしかりで、ボルボやB&Oに代表される道具としての秀逸さとデザイン性の高さを両立させた工業製品を産み出した風土や文化的背景が、実に詩情豊かに、またディグニティをもって語られるのには魅了されずにはおられませんでした。またメキシコ館では、ガルシア・マルケスに代表される彼の国の文学と自然・風土との関係が語られ、ギリシャ館では、「叡智とは全てを支配する原理を知ることである」とのエピグラムの下、この国の歴史や文化が、様々な神話的象徴を用いながらプレゼンテーションされます。いずれも国際社会で小国が、アイデンティティをもって生きていくための知恵にあふれたパビリオンでした。しかしながら、私が最も強烈なブランド・エクスペリエンスを体験したのは、実は他ならぬシンガポール館であったことを報告しておきます。この小洒落た、実に人を食ったブランディングについては、実際に万博にお出かけになってご覧になられる方のために内緒にしておきましょう。

たった2日間の視察で偉そうなことを申し上げるのは気が引けますが、今回の愛知万博の「正しい」見方は、企業パビリオンに長時間並ぶのはきっぱり諦め、親子やご夫婦で外国館を中心に回り、世界の文化や民族の多様性について共に学び、語り合うというスタイルであると進言させていただきたいと思います。

TCDブランディングカンパニー プレジデント 岡田一雄