先の2006年1月5日ラスベガスで開催中の2006 International CES (Consumer
Electronics Show) においてIntelの企業ブランド・ロゴマーク及び商品ブランド・ロゴ体系の刷新が発表されたことは耳に新しいと思います。大きな変化は、お馴染みの「intel inside」マークのイメージが企業ブランド・ロゴマークのデザインに昇格した(!?)と感じた方が多いのではないでしょうか。
ブランディングの世界的な成功例として、「インテル・インサイド・マーケティングプログラム」が米国のビジネススクールなどのケーススタディとして取り上げられ、日本発のアイデア「インテル入ってる」から始まったことを日本人留学生が知って驚くといったことが報告されていますが、詳細については、サクセス・ストーリーの常で様々な喧伝がなされていました。
そこで「なんと!」と言うか、仕掛け人がマイクロソフト・元コーポレートバイスプレジデントの古川享氏であったことが、ご本人の口から紹介されていますので、「
古川 享 ブログ」の
1月13日の投稿を参照願います。
インテルは今後「intel inside」ロゴの使用をやめるが、インテル製品を使う企業にインセンティブを提供するこの名前を用いた、「インテル・インサイド・マーケティングプログラム」は継続するとしています。単なるデザインイメージだけではなく、販売政策から始まったキャンペーンがブランド戦略、更には企業戦略として取り込まれたといえるでしょう。
市場で成功した商品ブランドが企業ブランドに昇格した例は、国内では「ピップフジモト」(藤本株式会社)や「マンダム」(丹頂株式会社)などがありますが、インテルの場合は、単にネーミング、デザインだけではなくマーケティングプログラムの巧妙さとその育て方にあるといえます。筆者は一度PC前面に貼られた「intel inside」シールをそれなりのツールで剥がそうと試みましたが、その接着の強力さにPC本体が傷つく恐れがあり断念した経験があります。単なるシールに見えますがメーカー・ブランド表示と遜色なく固着されていて、執念のようなものさえ感じた次第です。
ここで簡単にインテル・ブランドのリニューアルをレビューしてみますと。
新しい企業ブランド・ロゴは、1991年に考案された「intel inside」ロゴと、37年前に創業者2人が「integrated electronics」を語源に考案した社名「Intel」とそのロゴデザイン(「e」部分が下がって綴られる特徴を持つために「ドロップ-e」と呼ばれる) を発展させたものだと説明されています。 (図1)
また同時に企業スローガンである「インテル。さあ、その先へ。:intel. Leap ahead」も発表され、インテルによると、「世界的ブランド戦略の一環として実施したもので、その目的は市場の開拓を含めたプラットフォーム・ソリューション企業への転換をより明確に示すため」と説明され、新スローガンは「インテルのブランドが約束するもの、またインテルが企業として何を目指し、何を実現するのかを伝えている」と説明されています。
図1 新しいインテルブランド・ロゴの成因 (インテルの説明に基づきTCD作成)

同時に発表されたブランド体系は、企業ブランド(Master Brand)を最上位とする3階層からなるもので、こうした体系構造そのものをプレスで公開すること自体が、Pentiumという半導体製品からプラットフォーム・ソリューションへ企業戦略の重心をシフトする姿勢を明確にした戦略的コミュニケーションといえます。
Pentiumに代わって登場したプロセッサーコアの Core Dual や Core Solo は、IBM、Sony、東芝陣営から発表されたマルチコア/マルチプロセッサ・アーキテクチャのCellに対抗してネーミングされたという意見もありますが、ブランド体系の中で製品ブランド(Processor Brands)という最下階層に位置づけることで、もはや戦術レベルの競合であるという意思表示も伝わってきます。
「インテル・インサイド」マークの歴史をインテル社の資料(図3)から見てみますと1991年の「intel in it :インテル入ってる」から始まったことが分かりますが、「it」が性的な「アレ」「ナニ」という表現にも使われることから、米国で「intel inside」と変更されると同時に丸いストロークの起点・終点も移動しています。
これは日本と欧米での「丸を描く」時の違いがそのまま反映したといえるでしょう。
グローバル戦略展開に際してメッセージのネガティブ・チェックと象徴記号(OKあるいはGood)の補正が施されたことになります。
「intel inside」の文字部分も2002年にPCに加えてサーバー/ワークステーション用への製品ライン拡張時に、それまでの販促用のPOPを連想する手書き風の書体から、より精度を感じさせるものへとブラッシュップされています。
「インテル・インサイド・マーケティングプログラム」がB to Bのブランド戦略として特筆すべきことは、B to Cでは一般的であるエンド・ユーザーに、半導体ベンダーでありながら直接働きかけたものであるということです。B to Bにおいてはインセンティブ、 (B to ) B to Cでの徹底的な訴求とそのフィードバックの2つのフェーズで構成されたブランド価値連鎖を喚起するプログラムといえるでしょう。具体的には、エンドユーザー側がPCメーカーを超えて実装されるCPUが「同じintel insideだから」と囲い込み効果が発揮され、Pentium以降の製品ブランドの導入・認知を容易にし、ブランド拡張効果を持ったということになります。この意味ではマーケティング・キャンペーンのロゴマークでありながら既にマスター・ブランド(企業ブランド)としての重要な機能を獲得していたことになり、「intel inside」マークの基本イメージがインテルの新ブランド・ロゴに継承されたことは、ブランド資産とは何であるかを熟知したデザイン・プログラムといえるでしょう。