2025.05.02
ブランド戦略とは?企業活動を接続する共通判断基準のつくり方
生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

この記事の定義
- ブランド戦略とは:分断された企業活動を接続し、価格以外の理由で選ばれるための共通判断基準を定義する活動。パーパス・MVV・ビジョンを「言葉の表明」で終わらせず、製品・行動・デザインの3つの基準として事業に落とし込む設計までを含みます。
- パーパスとの違い:パーパスは「なぜ存在するか」の意志表明。ブランド戦略はその意志を「どう事業・組織・接点に変換するか」の実装体系。パーパスはブランド戦略の中核であり、出発点に位置します。
- TCDの定義:TCDでは、ブランド戦略を「判断が分かれる場面で、組織が迷わず同じ方向へ踏み出せる仕組みをつくること」と定義しています。
「パーパスを掲げたのに何も変わらない」——この課題の多くは、ブランド戦略の不在から生じます。本記事では、パーパスとブランド戦略の違いを整理し、企業活動全体を接続する共通判断基準をどう設計するかを、TCDの実務視点から解説します。ブランド運用とは?とブランド価値とは?もあわせてご参照ください。
TCDが考えるブランド戦略
共通判断基準として機能させる:
ブランド戦略は「戦略書を作ること」が目的ではない。日常の意思決定・採用・組織設計・顧客対応・ブランドコミュニケーションを、一貫した判断基準で接続することが目的。
インナーとアウターを同じ軸で設計する:
社員の判断・行動(インナー)と顧客向けコミュニケーション(アウター)を、同じ戦略の軸から設計する。どちらが欠けても、一貫したブランド体験は生まれない。
3つの領域を接続する:
製品開発基準・組織行動基準・ブランドコミュニケーション基準を接続することで、企業活動の分断がなくなりブランドが蓄積される。
戦略を実装まで届ける:
ブランド戦略はインナーブランディング・組織文化・ブランド運用・ブランド価値の蓄積プロセスへ接続することで機能する。策定は出発点にすぎない。
ブランド戦略とは何か
パーパスが広告表現だけでなく、企業の提供価値そのものへ接続され始めています。ついに道頓堀のグリコ看板にも「パーパス」が加えられました。「おいしさと健康」という提供価値から、「すこやかな毎日、ゆたかな人生」という新たなパーパスへ。グリコマンが高らかにパーパスを宣言するこの光景は、ブランド戦略の視覚的な転換点として印象的です。
ブランド戦略とは、こうした「なぜ」の意志表明を、製品・組織・顧客接点という3つの軸に一貫して変換する設計のことを指します。パーパスを掲げるだけでは不十分であり、それが事業活動のどの判断基準として機能するかを定義して初めて、ブランド戦略として機能します。

ブランド戦略とパーパスの違い
1990年代から、世界は30年近く利益や効率だけを重視する経営が広がる中で新自由主義的な考え方に支配されてきました。利益至上主義・株主至上主義は、大きな社会分断を生む副作用をもたらしました。この反省から、多くの欧米企業が「なぜそれをするのか」という創業の原点へ立ち戻ろうとしました——これがパーパス経営の背景です。
P&Gの伝説のマーケターであるジム・ステンゲル氏は、パーパスを「自分たちの商品・サービスを購入してくださる顧客の生活にどんなインパクトを与えることができるのか」と述べています。パーパスとは本業を通じて実現していくものであり、それが最も表れるのは商品やサービスです。
パーパスとブランド戦略の違いは、「宣言か、設計か」にあります。パーパスは意志の表明であり、ブランド戦略はその意志を組織の判断と行動に変換する実装体系です。パーパスがなければブランド戦略の核がなく、ブランド戦略がなければ、パーパスは掛け声で終わります。

共通判断基準がない組織で起きる分断
「パーパス」研究の第一人者である一橋大学ビジネススクールの名和高司客員教授は、「パーパス」は「目的」ではなく「志」と訳したほうが本質的と主張しています。日本企業の多くは昔から「志」「パーパス」を主軸に据えた企業運営を行っており、この点では日本企業が本来持っていた考え方が、改めて注目されるようになったとも言えます。
しかしこうした流れの中で、こうした日本の良い部分まで捨ててきてしまいました。現在、多くの企業でMVVやパーパスを新たに制定していますが、制定後に「事業と連動しない」「行動が変わらない」という状況が生まれています。その原因は、パーパスが判断基準として機能していないことにあります。
共通判断基準がない組織では、同じパーパスを持っていても「顧客志向」の解釈が部署ごとに異なり、対応にムラが生じます。誰もが正しいと思っている行動が、組織全体としては分断を生みます。これはブランド戦略の不在が引き起こす構造的な問題です。

ブランド戦略を機能させる:ビジョンとの接続
パーパスやMVVを制定したものの、目に見える効果が感じられず「絵に描いた餅」のような扱いになっているところは少なくありません。これには主に2つの要因があります。
1つは言葉の問題です。新たに制定されたパーパスは、どこの企業にも当てはまるような普遍的な表現に落ち着くことが多いです。こうした時に「ワクワク感」をどこで生み出すかというと、「MVV」の「ビジョン=Vision」が重要になります。
「ビジョン」とは企業のあるべき姿を示すもの。「うちの会社はこんなことを目指しているのか」「こうなれたら素晴らしい」と、社員の心をポジティブに動かすことができるビジョンになっているかが最重要です。不確実なVUCAの時代では、5〜7年後のあるべき姿でも十分に機能します。

ブランド戦略が接続する3つの領域
もう1つの要因は、パーパスが事業の中で実践することに落とし込まれていないことです。社外だけでなく社内に向けても、パーパスをWebサイトで表明するだけでは伝わりません。自社が提供する事業・製品・サービスの中に、パーパスで言っていることの片鱗が垣間見られた時に初めて共感が生まれます。
パーパス・MVVへの理解・納得・共感を引き出すには、以下の3つの基準を定め、一貫して運用し続けることがカギとなります。
- ① 自社らしい製品開発基準:どんな商品・サービスを作るか・作らないかの判断軸
- ② 自社社員らしい行動基準:顧客接点・社内対話でどう振る舞うかの行動規範
- ③ 自社らしい視覚(デザイン)基準:ブランドの見た目・トーンの一貫性を保つ指針
わかりやすい例として、リクルートの新事業判断基準があります。「人々の行動・習慣に、もう元に戻れないような変化をもたらすモノやコトであるか」——この問いが、事業に近いところで社員が常日頃意識する基準として機能しています。これがブランド戦略の実装であり、パーパスを事業推進の原動力にする核心です。

TCDが考えるブランド戦略
ブランド戦略を「ロゴやスローガンをつくること」と捉えている企業はまだ多いです。しかし、それは表現の一部に過ぎません。TCDが考えるブランド戦略とは、組織の判断基準を整え、製品・行動・デザインを通じてブランドを一貫して体現し続ける仕組みの設計です。
一度決めたら簡単に変えない。長期間やり続けることでようやく「らしさ・持ち味」として認識されていきます。ブランド戦略の効果は短期では現れません。しかしそれが機能した時、価格以外の選択理由で選ばれるブランドが生まれます。
ブランド戦略とは、インナーとアウター、理念と事業、組織と顧客体験を接続する基盤でもあります。
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Update:2025.05 記事内容アップデート、情報追加
[筆者プロフィール]
生山 久展
株式会社TCD ブランディングオーソリティー
戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。