2026.08.20

阪神梅田本店の新ブランドに見る、ブランドらしさをつくるデザイン

笹倉 彩加 株式会社TCD チーフデザイナー


百貨店を取り巻く環境が変化するなかでも、新しいブランドは次々と誕生し、多くの人々を惹きつけています。限られた売場の中で、各ブランドがどのように存在感を示し、選ばれるきっかけをつくっているのか。その工夫は、商品開発やブランディングにも多くのヒントを与えてくれます。
今回は、阪神梅田本店に新たに出店し、注目を集めている3ブランドの売り場を訪れ、それぞれのブランドがどのように「らしさ」を表現しているのかを観察しました。


今回観察したブランド

・flaneru(フラネル) 粉と砂糖と


参考:https://flaneru.com/

老舗洋菓子メーカー・エーデルワイスが手がけるスイーツブランド。お菓子づくりに欠かせない「粉」と「砂糖」に着目し、素材の魅力を生かしたシンプルでベーシックな焼き菓子を中心に商品を展開しています。

・ブリュレメリゼ・メルチー


参考:https://www.bruleemerize.jp/merchee/

「東京ばな奈」などを展開するグレープストーンが手がけるスイーツブランド。「ブリュレ×チーズ」をテーマに、砂糖をまぶして表面を香ばしく焦がす「ブリュレ」のひと手間を加えた、ブリュレチーズケーキやブリュレパイなどを展開しています。

・KASHO SANZEN(菓匠三全)


参考:https://www.sanzen.co.jp/haginoshirabe-koh/

仙台銘菓「萩の月」で知られる菓匠三全が展開するブランド。「萩の月」の姉妹品で、真っ白な生地とクリームが特徴の「萩の調 煌(こう)」を中心に商品を展開しています。これまで東京限定で出店していましたが、今回関西にも初出店しました。


観察① まず気づいてもらうための「売り場」

売り場が密集する百貨店では、まずブランドの存在に気づいてもらうことが出発点になります。どのように目を引き、足を止めてもらうのか。3ブランドの売り場から、その工夫を見ていきます。


「何をどう見せるか」がつくる第一印象

3ブランドを見比べて、まず印象に残ったのが、色や素材感の使い方です。

flaneruは、オレンジ色を売り場の広い面積に使用しています。周囲の売り場と見分けやすく、遠くからでも存在を認識できる強さがあります。さらに、オレンジ色の温かさや親しみやすさが、焼き菓子を扱うブランドの雰囲気にもつながっています。

ブリュレメリゼ・メルチーは、爽やかな水色を広い面積に使い、キャラクターの大きなイラストを配置。遠くからでも売り場を認識しやすくすると同時に、都会的な華やかさと楽しげな世界観を伝えています。

一方、KASHO SANZENは、ロゴの黒・金を基調とした配色と木材を生かした空間によって、贈答品の和菓子に期待される落ち着きと上質感を生み出しています。箱型のパッケージを整然と並べ、余白を生かすことで、すっきりとした印象もつくられていました。

3ブランドを比べると、目立たせ方はそれぞれ異なっており、特徴的な色で視線を引くブランドもあれば、カテゴリーに合った落ち着きの中で存在感をつくるブランドもあります。
単に目立つのではなく、「どのようなブランドとして見つけてもらいたいか」まで考えて売り場を設計することが大切だと感じました。


観察② 近づいた人に商品の魅力を伝える「見せ方」

売り場に気づいてもらった後は、「このブランドは何を売っているのか」「この商品はどんなものなのか」を理解してもらう必要があります。
ここでは、商品の特徴をどのように視覚化し、興味につなげているのかに注目しました。


商品をモチーフに、楽しく印象づける

売り場で印象的だったのが、商品をモチーフにした大きなオブジェです。

flaneruでは、壁面にビスケットの大きなオブジェが設置されています。実物をそのまま再現するのではなく、デフォルメされた形や大きさによって、オブジェそのものにかわいらしさや遊び心が生まれています。

KASHO SANZENでは、ガラスケースの中に「萩の調 煌(こう)」を大きく見せるオブジェが置かれています。ブランドを象徴する存在として、特別感を持って見せているように感じられました。

どちらも商品を説明するだけではなく、大きさや表現を変えることで視線を集め、商品そのものを売り場の魅力にしている点が印象的でした。
また、代表商品をブランドのシンボルとして、見た人に印象付ける役割も担っていると考えられます。


「おいしそう」を視覚化する

ブリュレメリゼ・メルチーでは、ガラスケース内の商品サンプルによって、チーズケーキのとろりとした質感や、クリームを挟んだパイのボリューム感を伝えています。
「ブリュレ×チーズ」という特徴を言葉だけで説明するのではなく、見た目から味や食感を想像させ、「おいしそう」「食べてみたい」という感覚につなげています。

商品を理解してもらうというと、商品の特徴を言葉で説明することを考えがちです。しかし、売り場のオブジェやサンプルには、情報を伝えるだけでなく、まだ体験していない商品の魅力を直感的に想像させ、手に取るきっかけをつくる役割もあるのだと感じました。


観察③ 手に取って確かめる「パッケージ」

売り場で興味を持った人が次に目に入るのがパッケージです。
パッケージは、商品を選ぶための情報を伝えるだけでなく、売り場で感じたブランドの印象を持ち帰ってもらう役割も担っています。
ここでは、売り場とパッケージがどのようにつながっているかに注目しました。


売り場の印象をパッケージにつなげる

売り場で印象的だったのが、商品をモチーフにした大きなオブジェです。

flaneruでは、売り場で広く使われていたオレンジが、パッケージでもポイントカラーとして使われています。
ただし、同じ見せ方をしているわけではありません。売り場ではオレンジを大きく使ってブランドの存在を印象づけ、パッケージでは白地や小麦畑のイラストと組み合わせることで、世界観の広がりや上品で穏やかな印象をつくっています。

ブリュレメリゼ・メルチーでは、売り場で印象的だった水色やキャラクター、スイーツのイラストなどがパッケージにも引き継がれています。売り場で見た要素とパッケージがつながることで、「あのお店の商品だ」と認識しやすくなっています。

KASHO SANZENでは、パッケージはシンプルな色数に抑えられ、明朝系の書体や左右対称の構図、金の箔押しを組み合わせることで、売り場で感じた落ち着きや上質感がパッケージからも感じられました。

3ブランドに共通しているのは、売り場とパッケージで共通する要素を持たせ、ブランドの印象をつないでいることです。
一方で、売り場とパッケージをまったく同じデザインにしているわけではありません。遠くから見る売り場では、色やキャラクター、空間全体の印象によってブランドを認識してもらい、手に取って見るパッケージでは、イラストや書体、素材、加工など、より細かな表現に落とし込んでいます。


「ブランドらしさ」と「商品の違い」をどう両立するか

もう一つ気になったのが、ブランドとしての統一感と、商品ごとの差別化のバランスです。

ブリュレメリゼ・メルチーでは、定番商品のデザインにブランドカラーやキャラクターなど共通する要素を持たせながら、期間限定のピスタチオ味では広い面積にグリーンを使用。ブランドとして認識できる要素を残しながら、「いつもの商品とは違う」という情報も伝えています。

共通させる要素と、商品ごとに変える要素をどこに設定するか。
その設計によって、ブランドとしての統一感と、商品一つひとつの違いを両立させている点が印象的でした。


今回の観察から考えたこと

今回、3つのブランドを「①気づく、②理解する、③手に取る」という流れで観察してみると、ブランドらしさは、一つのデザインだけでつくられるものではないことが見えてきました。

ブランドと生活者の間には、売り場、商品の見せ方、パッケージなど、複数の接点があります。ブランディングにおいて大切なのは、それらをただ同じデザインで揃えることではなく、それぞれの接点の役割に合わせて表現を変えながら、共通する印象をつないでいくことなのではないでしょうか。

今回の観察を通して、デザインを考えるときには、一つの媒体やツールだけを見るのではなく、その前後にどのような接点があり、生活者がどのようにブランドと出会い、理解していくのかまで視野を広げて考えることが大切だと感じました。そうした一つひとつの積み重ねが、「このブランドらしい」という感覚につながっていくのだと思います。

[筆者プロフィール]

笹倉 彩加

株式会社TCD チーフデザイナー

お菓子や日用品を中心としたパッケージデザインを担当。可愛いものが好き。

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