2026.09.15
【新常識】同質化の壁を打ち破るカギは「識別化」にあり! EBM(エビデンス・ベースド・マーケティング)が実証した売上向上の絶対法則
生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

前回の私の記事では、マーケティングの最新トレンドとして、顧客が商品・サービスを必要とする瞬間(オケージョン)に思い出してもらうきっかけ、「CEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)」について取り上げました。「〇〇な時には、あの会社(ブランド)を思い出してもらう」このCEPの設計は非常に重要ですが、実はこれだけでは不十分です。せっかく顧客が「あ、〇〇が必要だな」と思い出してくれた瞬間に、自社のブランドが競合他社のなかに埋もれてしまい、見落とされてしまったら意味がないからです。そこで今回は、CEPとあわせて知っておくべき重要なテーマを紹介します。
■「差別化」ではなく「識別化」を目指せ
それは「差別化(Differentiation)」ではなく「識別化(Distinctiveness)」※を目指せ、という戦略です。
現代の競争環境は、ほとんどの市場で基本機能や品質で差がつかない「同質化」の状況にあります。しかし提供側の企業は「競合他社との違い(差別化)」を必死にアピールしようとします。「他社よりここが優れています」「我が社独自の最新スペックです」と。もちろん、プロダクトライフサイクルが黎明期にある商品や、圧倒的な機能の差がある商品なら「差別化」は有効です。しかし多くの市場では技術やサービスが平準化し、顧客から見れば「どれを選んでも差はない」と受け止められてしまっています。これは食品や日用品といった低価格の市場だけではなく、自動車、保険、住宅、さらにはBtoBの取引市場においても同様の傾向が見られています。
買い手からすれば「どれでもいい」状態なのに、売り手側だけが「微細なスペックの差」を必死にロジカルに説明しようとする。ここに大きなズレが生まれています。
実はCEPも、識別化もバイロン・シャープに代表されるEBM(エビデンス・ベースド・マーケティング)グループが提唱している概念です。このグループが明らかにしてくれた真実は、「顧客は他社との細かい違いなんて、ほとんど気にしていない(覚えていない)」という実証データです。
この同質化時代に私たちが目指すべきは、他社との違いを言葉で論理的に説明すること(=差別化)ではありません。顧客が「そろそろ買おうか」と検討を始めるまさにその瞬間に、その他大勢の中からパッと自社の商品・サービスを迷わず見分けてもらうこと。これを「識別化」と呼んでいます。
※EBMグループの本では「Distinctiveness」を「識別化」ではなく「独自化」と訳していますが、これだと「差別化」よりもさらに強い固有価値を有しているという誤解を与えるので、筆者は「識別化」という言葉を使うことが適切だと考えています。
■ 顧客の頭の中に植え付ける目印=識別性資産とは?
では、どうすれば顧客に一瞬で見分けてもらえるのでしょうか?そのための武器が、「識別性資産(DBA=Distinctive Brand Assets)」と呼ばれるものです。これは「色」「ロゴ」「形」「キャラクター」「お決まりのフレーズ」といったもので、顧客はこの目印(アセット)を頼りに、無意識にブランドを探し当てています。ロゴマークのデザインだけではなく、人間の五感や記憶に直接訴えかける「ブランド固有の目印(記号)」すべてを含みます。確実に選ばれるブランドになるためには、これらをあらかじめ商品やサービスの表示部分に織り込んでおくことが必要になります。
1.視覚
①Appleのリンゴのロゴマーク
製品本体だけでなく、サイト、広告、店舗まであらゆるタッチポイントで機能する究極のシンボル

参考サイト)Apple 名古屋栄
②ティファニーの青い箱
このティファニーブルーの色と箱を見るだけで気分が高揚する

参考サイト)ティファニー ブルー ボックス
③キユーピーの赤い網目模様
スーパーの棚で、少し離れたところからでも一瞬でキユーピーと分かる

参考サイト)キユーピーマヨネーズ
④伊勢丹のタータンチェックのショッパー
購入後に持ち歩かれることでブランドへの接触効果は絶大

参考サイト)ISETAN TARTAN
⑤みずほファイナンシャルグループの「青」
「青さで挑む」という企業姿勢を「色」でアピール

参考サイト)青さで、挑む。
2.聴覚
①ネットフリックスの「ダダーン」という起動音
これから良質なエンタメ体験が始まるという感情とブランドを結びつけている
②インテルの「ジャジャジャジャン♪」というサウンドロゴ
このパソコンには信頼できる頭脳が入っているという安心感を醸成

参考サイト)インテル株式会社
③ニトリの「お、ねだん以上。」のフレーズ
言葉の意味とメロディが完全に一体化した日本を代表する聴覚資産

参考サイト)「お、ねだん以上。創造ストーリー」
④ファミリーマートの入店音
「ただのコンビニ」ではなく「今ファミマにいる」という体験を強く印象づけている

参考サイト)ファミリーマート公式サイト
⑤Daiichi Life Groupのサウンドロゴ
社名変更に伴いサウンドロゴを導入し、認知拡大に向けてTVCMを大量投入
3.存在
①KFCの「カーネル・サンダース」の人形や看板
白いスーツの等身大の老人や看板が見えた瞬間にKFCだと気がついてもらえる

参考サイト)カーネルの部屋
②すしざんまいの「木村社長」
両手を広げた「すしざんまいポーズ」とあの笑顔を見ただけで寿司を食べに行きたくなる

参考サイト)すしざんまい
③TMEICの「ティーマイクマン」
黒子として顧客を支える姿を、スパイダーマンを連想させる正義のヒーローに仕立てた

参考サイト)TMEIC
4.形状
①スターバックスの「緑色のストロー」
商品やパッケージではなく、付属の消耗品であるストローでブランドを強く想起

参考サイト)スターバックスの緑のストローが帰ってきた。飲み心地が良く、地球にもポジティブに。
②カップヌードルのフタを止める「2つの耳(Wタブ)」
底についていたシールを廃止し、シールなしで簡単確実に留められるようにした

参考サイト)“フタ止めシール” を廃止して、年間33トンのプラスチック原料を削減! 「カップヌードル」に新形状のフタ “Wタブ” を2021年6月より採用
③アリエールの「ジェルボール」
ボールをつまんでポンと入れるだけ、粉末でも液体でもない究極の簡便性を実現

参考サイト)アリエールジェルボール
■ 識別性資産を伝えるコミュニケーションのポイントは?
上記のような「ブランド固有の目印」はあくまでもアセットに過ぎません。これを作っておけば自動的に選ばれるわけではなく、この目印を顧客の頭の中に定着させ、ブランドを育てるためのコミュニケーションが不可欠です。EBMグループは以下の3つを鉄則として挙げています。
鉄則1:ターゲットを絞らない
特定のペルソナだけに深く刺さるメッセージを送ろうとすると、市場の大部分を占める「たまにしか買わないライトユーザー」を自ら捨てることになります。コトラーに代表される古典的マーケティングでは、繰り返し購入してくれるロイヤルユーザーを大事にすることがマーケティングの基本とされてきました。しかし、EBMグループは、売上拡大にはライトユーザーの獲得が必須であることを実証しています。したがって広告や発信は、市場全体(全方位)に広く届けることを基本としなければなりません。
鉄則2:メッセージより「目印」を主役にする
世の中の広告の多くは、視聴者が「面白い広告だな」と思っても、「どこの会社の広告だっけ?」と競合ブランドに誤認されています。ストーリーの中に、自社の「色」や「お決まりのフレーズ(音)」を徹底的に立たせることが重要です。
鉄則3:数年単位で絶対にブレさせない
「新商品が出たから、今回はガラッと違う色使いにしよう」「流行りのデザインに変えたいから、ロゴのフォントを変えよう」…これは、自ら進んで「顧客の記憶から自社の目印を消去している」のと同じです。一度やり始めたら辛抱強くやり続けることが必要です。
コロコロと見た目を変えてしまう行為は、顧客から見れば「毎回知らない人が目の前に現れる」ようなもので、いつまで経っても頭の中に資産が溜まっていきません。時代や顧客のニーズに合わせて、商品やサービスの中身は進化させていかなければなりませんが、一瞬で見つけてもらうための「ブランド固有の目印」は長期的に活用していくべきものです。社内やマーケター自身が「もうこのデザインやフレーズには飽きたな」と感じても頻繁に変えるような行為は断じて慎むべきでしょう。
皆さんの会社やサービスには、こうしたアセットがありますか?この機会に自社のアセットを確認する定性調査を実施することも一つの手だと思います。自社のファンユーザーを集めたグループインタビューで、対象のブランドについて思い出すことを「絵」に描いてもらいます。自社のファンユーザーが何で識別しているかが一目瞭然になります。こうして明らかになったアセットは自社にとって重要な資産であることを再認識して、同質化市場を勝ち抜く原動力として積極的に活用していきましょう。