2026.06.08
限られた条件でも、迷わず選ばれるパッケージデザインへ
山本 みき 株式会社TCD クリエイティブディレクター

― 色が減ったとき、ブランドの強さが見えてくる
最近、資材調達の不安定化を背景に、一部の食品メーカーでパッケージの色数を抑える対応が報道され、話題になりました。
「色が使えなくなる」ーー。
いつも見慣れているはずの商品が、色を失っただけで、急にいつもの商品に見えなくなる。そんな不思議な感覚を覚えた人も多かったかもしれません。パッケージの色は、それほど強い記憶の手がかりになっています。
たとえば、コンビニやスーパーで商品を探すとき、私たちは毎回ロゴを読んでいるわけではありません。「あの赤いパッケージ」「青いラベルのやつ」「いつもの緑の箱」そんなふうに、色や形、配置の印象を頼りに商品を見つけています。
一方で、色が変わっても「なんとなく、あの商品だとわかる」パッケージもあります。
そこには、色だけではない“ブランドらしさ”が積み重なっています。
パッケージに必要なのは、「瞬発力」と「持続力」
TCDでは、パッケージデザインには「瞬発力」と「持続力」の両方が必要だと考えています。
瞬発力とは、売場で目に留まり、商品特徴がすぐ理解でき、思わず手に取りたくなる力。
一方、持続力とは、ブランドとして記憶され、繰り返し選ばれ、生活者の中に“らしさ”が蓄積されていく力です。
色は、この両方を支える非常に重要な要素です。たとえば飲料売場では、無糖系は黒や白、爽快感は青、果実感は暖色系など、カテゴリー全体で共有されている“らしさ”があります。色は単なる装飾ではなく、売場で商品を理解するための重要なサインでもあります。
制約があると、「残すべきもの」が見えてくる
色数が減る。特殊加工が使えなくなる。素材が変わる。こうした制約が生まれたとき、単純に装飾を減らすだけでは、ブランドの印象は弱くなってしまいます。
大切なのは、「何を削るか」ではなく、「何を残せば、そのブランドだと伝わるか」を整理することです。
たとえば、
- 商品名が見えれば認識できるのか?
- ブランドカラーが重要なのか?
- 香りや効能のアイコンが必要なのか?
- レイアウトの型に特徴があるのか?
ブランドごとに、“認識の核”は異なります。
人で言えば、髪型や服装が変わっても、あまり印象が変わらない人もいれば、まるで別人のように大きく変わる人もいます。ブランドにも同じように、「何によって認識されているか」があります。
色に頼り切らない設計が、ブランドを強くする
TCDはこれまで、日用品、芳香剤、医薬品、食品など、売場での識別性が強く求められるパッケージデザインに数多く携わってきました。
こうした領域では、単に目立つだけでは十分ではありません。
生活者が売場で一目見たときに、何の商品なのか、どの用途の商品なのか、どの香り・効能を選べばよいのかが直感的に伝わる必要があります。
そのためTCDでは、パッケージデザイン開発において、ブランド視点から5つのポイントを設けています。
- カテゴリーに合った表現
- ターゲットに合った表現
- USPの明確な訴求
- ブランドアイコンの開発
- 企業価値の活用
カラーも、その中の重要なブランドアイコンのひとつです。
ただ、本当に強いブランドは、色だけに依存しない構造を持っています。
たとえば、モノクロになっても、遠くから見ても、棚に並んだ状態でも「あの商品だ」と認識できる。それは、ロゴ、レイアウト、情報設計、形状、余白など、複数の要素が一貫して積み重なっているからです。
売場では、一つひとつの商品を丁寧に比較検討する時間はそれほど長くありません。
だからこそ、一瞬で伝わる“瞬発力”と、記憶に残り続ける“持続力”の両方が必要になります。

制約は、ブランドを見直す機会になる
これからの時代、パッケージデザインには、豊かに見せる力だけでなく、変化に耐えられる設計力が求められていきます。
資源環境や供給条件が変わっても、ブランドらしさを保てること。簡易仕様になっても、生活者が迷わず選べること。そのためには、表現を増やすこと以上に、ブランドの本質を整理することが不可欠です。
色がなくなったとき、何が残るのか。
そこには、ブランドが長い時間をかけて積み重ねてきた、“らしさ”が現れます。
TCDはこれからも、見た目の美しさだけでなく、売場で機能し、生活者の記憶に残るパッケージデザインを追求していきます。