2026.10.13

インナーブランディング【施策ランキング10選】まず何から始めるべき?

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

インナーブランディング 施策 ランキング



■TCDが考えるインナーブランディング

企業理念やMVVをつくって終わりにせず、社員一人ひとりの日々の判断や行動につなげていく。それが、TCDの考えるインナーブランディングです。

新しく企業理念をつくった。ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を定めた。あるいは、パーパスを策定した。では、それをどうやって社員に浸透させていけばいいのでしょうか。ネットやAIで調べてみると、さまざまな施策が出てきます。しかし、実際に取り組む側からすると、ここからが難しいところです。


 「結局、何から始めればいいのか」
 「この施策は、何のためにやるのか」
 「本当に効果があるのか」
 「やるとしたら、何に気をつければいいのか」


そこで今回は、インナーブランディングでよく用いられる代表的な施策を10個取り上げ、「効果」「導入しやすさ」「継続しやすさ」など、TCDがこれまでインナーブランディングをサポートしてきた経験をもとに、ランキング形式で整理してみます。これからインナーブランディングを始める方にとって、施策を選ぶ際の判断材料になればと思います。

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No.10 サンクスカード/ピアボーナス

効果:★★☆☆☆ 導入しやすさ:★★★★★ 継続しやすさ:★★★★☆

サンクスカード/ピアボーナス

社員同士で感謝や称賛を伝え合うサンクスカードやピアボーナスは、比較的導入しやすく、社内コミュニケーションの活性化にもつながる施策です。

ただし、「ありがとう」を送り合うだけでは、インナーブランディングとは言えません。

例えば「挑戦する」「顧客起点で考える」「チームで成果を出す」といった自社のバリューや行動指針があるなら、どの価値観を体現した行動だったのかをセットで称賛する。ここまで設計することで、抽象的な価値観と日常の具体的な行動が結びついていきます。

逆に、この接続がないまま運用すると、単なる「社員同士の仲を良くする施策」になりがちで、利用する人が固定化したり、カードを送ること自体が目的になったりするケースにも注意が必要です。導入する際は、ぜひ以下の点に注意するといいと思います。


●何のためにやる?
理念やバリューに沿った「良い行動」を社員同士で発見し、可視化するため。

●注意点
サンクスカードそのものにブランドを浸透させる力があるわけではありません。「何を称賛するのか」を、自社の理念や行動指針と結びつけることが重要です。



No.9 ブランド研修/オンボーディング

効果:★★★☆☆ 導入しやすさ:★★★★☆ 継続しやすさ:★★★★☆

ブランド研修/オンボーディング

企業理念やMVVを社員に理解してもらう方法として、まず思い浮かぶのが研修です。理念を策定した背景や会社の歴史、ブランドが目指す姿、大切にしたい価値観などを体系的に伝えることができます。

特に、新入社員やキャリア採用者へのオンボーディングに組み込むことは重要です。新しい社員が入るたびに一から説明するのではなく、「この会社は何を大切にしているのか」を共通して学ぶ機会を仕組みとして持つことができます。

一方で、研修の弱点は「理解した」と「行動できる」の間に距離があることです。

理念について説明を受け、その内容を理解できたとしても、「では、自分の仕事ではどう行動すればいいのか」まで落とし込めるとは限りません。研修を受講すること自体が目的になってしまえば、インナーブランディングとしての効果は限定的です。

そのため、ブランド研修はスタート地点と捉え、別途自分の仕事との関係を考える時間を設けるなど、その後の施策へつなげることが重要です。


●何のためにやる?
企業理念やブランドについて、社員が共通して持つべき基礎的な理解をつくるため。特に新しく組織に加わる社員への継続的な浸透に有効です。

●注意点
「研修を受けた=理念が浸透した」ではありません。知識として理解するだけで終わらせず、日々の仕事や判断、行動へどうつなげるかまで設計する必要があります。



No.8 社内報/社内SNS/社内ポータル

効果:★★★☆☆ 導入しやすさ:★★★★☆ 継続しやすさ:★★★☆☆

社内報/社内SNS/社内ポータル

企業理念やMVVは、一度伝えただけではなかなか定着しません。そこで重要になるのが、社内報や社内SNS、社内ポータルなどを使った継続的な情報発信です。

経営からのメッセージを発信するだけでなく、「このプロジェクトは私たちのバリューをどう体現しているのか」「ある社員の行動がなぜブランドらしいのか」といった具体的な事例を紹介することで、抽象的な理念と日々の仕事を結びつけることができます。

一方で、よくあるのが「社内広報は活発になったが、ブランド浸透にはつながっていない」という状態です。また、継続的な運用が必要な施策だけに、担当部署だけでコンテンツをつくり続ける負担も大きくなります。まず、続けることのできる体制づくりが欠かせません。


●何のためにやる?
社員が企業理念に触れる機会を継続的につくり、日々の仕事の中で「常に意識する」ものとして定着させていくため。

●注意点
発信量や閲覧数だけを追わないこと。社内メディアを活性化することではなく、理念と実際の仕事をつなぐことが目的です。



No.7 トップメッセージ/経営層による対話会(キャラバン)

効果:★★★☆☆ 導入しやすさ:★★★★☆ 継続しやすさ:★★★☆☆

トップメッセージ/経営層による対話会

企業理念やMVVを浸透させるうえで、経営トップが自らの言葉で語ることは欠かせません。なぜこの理念を掲げるのか、会社をどこへ向かわせたいのか。策定された言葉だけでは伝わりにくい背景や思いを、社員に直接伝えることができます。

全社集会や動画でのメッセージ発信だけでなく、経営者が各拠点や部署を訪問して対話する「トップキャラバン」もその一つです。社員との距離が遠くなりやすい規模の大きな組織ほど、経営の考えを直接聞く機会には意味があります。

ただし、経営から社員への一方向の発信を繰り返すだけでは、「会社が言っていること」で終わってしまう可能性があります。また、トップが語っている内容と、実際の経営判断や現場で起きていることに矛盾があれば、むしろ理念への不信感を生むこともあります。


●何のためにやる?
企業理念やMVVに込められた背景や経営の意思、本気度を社員に伝えるため。

●注意点
一方的な「理念の説明会」にしないこと。トップ自身の具体的な判断や行動と理念が一致していることが、何より重要です。



No.6 表彰制度/アワード

効果:★★★★☆ 導入しやすさ:★★★☆☆ 継続しやすさ:★★★★☆

表彰制度/アワード

企業理念やMVVを浸透させるには、「理念に沿った行動とは何か」を社員が具体的にイメージできることが重要です。その方法の一つが、理念やバリューを体現した社員やチームを表彰する制度です。

例えば「挑戦」というバリューを掲げているのであれば、成果の大きさだけではなく、「これまでにない方法に挑戦した」「失敗しても次につながる行動を起こした」といった事例を取り上げる。表彰を通じて、会社が本当に評価している行動を具体例として示すことができます。

注意したいのは、売上や成果だけで受賞者を選んでしまうことです。掲げているバリューでは「チームワーク」を重視しているのに、個人売上のトップだけが毎年表彰されるのであれば、社員が受け取るメッセージは「結局、数字がすべて」ということになってしまいます。


●何のためにやる?
理念やバリューを体現した行動を具体例として可視化し、「この会社では何が評価されるのか」を組織全体で共有するため。

●注意点
表彰基準と理念を一致させること。表彰される行動が理念と矛盾していると、インナーブランディングとしてはむしろ逆効果になります。



No.5 クレド/行動指針

効果:★★★★☆ 導入しやすさ:★★★☆☆ 継続しやすさ:★★★★☆

クレド/行動指針

企業理念やMVVは、どうしても抽象的な言葉になりがちです。「挑戦する」「顧客を第一に考える」「誠実である」と掲げても、共通の判断基準がなければ、実際の仕事における判断や行動は人によって分かれていきます。

そこで、理念やバリューを具体的な判断や行動へ落とし込んだものが、クレドや行動指針です。クレドというと、カードを制作して社員に配布する施策をイメージしがちですが、重要なのはカードをつくることではなく、実際の仕事の中で使われることです。

行動指針を1on1や人事評価、採用、表彰制度などと結びつけることで、その効果は大きく変わります。「会社が大切だと言っていること」と「実際に会社が評価していること」が一致すれば、理念は単なるスローガンではなく、組織の行動基準になっていきます。


●何のためにやる?
抽象的な企業理念やMVVを、「自分たちは日々どう判断し、どう行動するのか」という具体的な基準に変えるため。

●注意点
日常業務で使われる仕組みをつくり、特に人事評価や1on1など、社員の行動に影響する制度と接続することで効果が高まります。



No.4 ブランドブック/カルチャーブック

効果:★★★★☆ 導入しやすさ:★★★☆☆ 継続しやすさ:★★★★☆

ブランドブック/カルチャーブック

企業理念やMVVを策定した後、それを社員に伝える代表的なツールがブランドブックやカルチャーブックです。理念の言葉だけでなく、策定した背景、会社の歴史、ブランドが目指す姿、大切にしたい価値観、具体的な行動などを一つにまとめることで、社員がブランドを理解するための共通の「教科書」をつくることができます。

なお、ブランドブックは「つくった感」が出やすい施策でもあるため、注意が必要です。

重要なのは、ブランドブックを成果物ではなく、その後の活動に使うツールとして設計することです。ワークショップで使う、1on1で振り返る、オンボーディングで読み合わせるなど、社員が繰り返し触れる仕組みとセットにすることで、その価値が生まれます。


●何のためにやる?
企業理念やブランドの考え方を体系的に整理し、社員がいつでも立ち返ることのできる共通の理解基盤をつくるため。

●注意点
「完成して配布した」で終わらせないこと。日常のコミュニケーションでどう使うかまで設計することが重要です。



No.3 ブランド・アンバサダー制度

効果:★★★★★ 導入しやすさ:★★★☆☆ 継続しやすさ:★★★★☆

ブランド・アンバサダー制度

組織が大きくなるほど「経営から現場までの距離」が問題になります。経営がどれだけ丁寧に発信しても、部署や拠点、階層を経るうちに、理念に込められた背景や意味は少しずつ薄れていきます。

そこで、各部署や拠点から社員を選び、理念浸透のハブとなってもらうのがブランド・アンバサダー制度です。インナーブランディング担当部署だけで活動を進めるのではなく、現場側に推進役をつくることで、継続的な活動へ展開しやすくなることもメリットです。

一方で、制度をつくって「あなたは今日からアンバサダーです」と任命するだけでは機能しません。本人が理念を十分に理解していなかったり、何をすればよいのか分からなかったりすると、単なる追加業務になってしまいます。


●何のためにやる?
経営と現場の間に理念を伝えるハブをつくり、それぞれの職場で理念について考え、対話し、実践する活動を継続するため。

●注意点
人選と役割設計が重要です。アンバサダー自身への研修や活動支援、定期的な情報共有の場などを用意し、「任命して終わり」にしない仕組みが必要です。



No.2 ワークショップ

効果:★★★★★ 導入しやすさ:★★★★☆ 継続しやすさ:★★★★☆

ワークショップ

企業理念やMVVを「会社から与えられた言葉」から「自分たちの言葉」へ変えていく。そのために最も取り組みやすく、効果を実感しやすい施策がワークショップです。

例えば、「このバリューは自分たちの仕事ではどんな行動を意味するのか」「自社らしい行動とは何か」「逆に、ブランドを損なう行動とは何か」。こうしたテーマについて社員同士で考え、対話します。

重要なのは、理念について正しい答えを教えることではありません。社員自身が考え、他の社員の考えを聞き、自分の仕事との関係を見つけていくことに意味があります。

ワークショップで出てきた言葉や行動例を行動指針に反映する、ブランドブックに収録する、アンバサダーが各職場で継続して対話するなど、そこで生まれたものを次の活動へつなげることが重要です。


●何のためにやる?
企業理念やMVVを社員自身の仕事に置き換えて考え、理解から共感、そして具体的な行動へつなげるため。

●注意点
ワークショップを開催すること自体を目的にしないこと。「楽しかった」「いい話ができた」で終わらせず、そこで生まれた気づきや言葉を、その後の行動や仕組みにどう残すかまで設計する必要があります。



No.1 浸透度調査/社員アンケート

効果:★★★★★ 導入しやすさ:★★★★☆ 継続しやすさ:★★★★★

浸透度調査/社員アンケート

TCDでは、インナーブランディングは施策選定ではなく、まず現状を把握することから始まると考えています。そのため、最初に把握しておきたいのが「現在、企業理念やMVVが社員にどの程度浸透しているのか」です。

理念を知っているのか。内容を理解しているのか。共感しているのか。自分の仕事との関係を理解しているのか。そして、実際の行動につながっているのか。同じ「浸透していない」という状態でも、どこに問題があるかによって必要な施策は変わります。

さらに、同じ項目を半年後、1年後にも調査することで、実施した施策によって何が変わったのかを確認できます。インナーブランディングは成果が見えにくい活動だからこそ、始める前の状態を記録しておくことが重要です。

ただし、何でもアンケートで聞けばよいわけではありません。「理念に共感していますか?」といった総合評価だけでは、具体的な課題は見えてきません。認知・理解・共感・自分ごと化・行動など、浸透の段階を分けて設計することがポイントです。


●何のためにやる?
現在の浸透状況と課題を把握し、実施すべき施策を判断するとともに、その後の変化を継続的に測定するため。

●注意点
満足度やエンゲージメントを測るだけの調査にしないこと。「どこまで理念が浸透し、どこで止まっているのか」を把握し、改善を図るための定点観測が重要です。



今回は、インナーブランディングでよく使われる10の施策を、TCDなりの視点でランキングしてみました。

どの施策にも共通していることは、単独で実施するだけでは、十分な効果を発揮しにくいということです。だからこそ、最初に考えるべきなのは「どの施策をやるか」ではありません。


今、自社では理念の浸透がどこで止まっているのか。
その課題を解決するために、どの施策が必要なのか。


今回のランキングも、1位から順番に実施するためのものではなく、その判断をするための一つの目安です。これからインナーブランディングを始める方にとって、施策を選ぶ際の検討材料にお役立ていただければ幸いです。


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[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

CI・VI、ブランディング支援歴 33年
ブランドストラテジスト・マーケティングサポート
企業ブランドの再構築、事業ブランド開発に多数関わる

>筆者について

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